01


猛と暮らすようになって一週間。軽い接触はあるもののあれから猛は家を空ける日が続きマンションには帰って来ていなかった。

そのお陰で俺は前と変わらない生活を送っている。

外出する時以外は、だが。

「そうだ、休学届け…」

身の回りが落ち着いた事で、ある程度自由になった俺は大学に休学届けを出しに行こうと思い立ち、リュックを背負いバイクの鍵を手にした。

面倒臭かったが日向に一言電話を入れ、戸締まりをしてからバイクの置かれている地下駐車場へ向かった。

盗難防止用にかけてあったロックを外し、ハンドルにかけてあったヘルメットを被る。

バイクを立てて、サイドスタンドを外しバイクにまたがった。

大学に行って、それからその辺走ってくるかな。

右足でブレーキをかけながら鍵を回してエンジンをかける。

どちらかといえば俺はバイクに乗るのが好きだ。あのバイクでしか味わえない風を切って走る感覚、まるで風になったような感じ。

ギアをチェンジして俺はバイクを発進させた。

薄暗い地下駐車場を出れば、良く晴れた明るい地上が俺を出迎えた。

右にシグナルを出し、俺は大学へとバイクを進めた。

その少し後ろを、この一週間で見慣れた日向が距離を置いてついて来ていた。







大学の敷地へ入れば、ちょうど休み時間にぶつかったのかバラバラと学生が外を歩いていた。

スピードを落とし、学生達を避けながら駐輪場まで行き、バイクを止めた。

ヘルメットを脱いで、乱れた髪を直すため軽く頭を振り、手にしていたメットをハンドルにかけた。

「ふぅ…」

さぁ、行くかと踵を返そうとした所で、新たにバイクでやって来た人物に声をかけられた。

「拓磨」

ヒヤリと氷を思わせる冷たく静かで耳に心地好い声。

名前を呼ばれて振り向けば、バイクを止めてメットを脱いだ長身黒髪、漆黒の鋭い相貌が俺を射抜くように見ていた。

「大和」

「拓磨、お前今まで何処にいた?集会の日から連絡はとれねぇし大学にも顔を出さねぇ」

大和は俺が総長を務めるチーム、鴉-カラス-の副総長にして大学の同期生だ。

「あぁ、ちょっとな。俺に何か用だったか?」

詳しい事が語れることもなく、誤魔化して聞き返した。

「たいした事じゃねぇが、炎竜-エンリュウ-が怪しい動きを見せてる。一応、気を付けておけ」

「分かった」

炎竜は鴉の傘下にある武闘派チームの一つだ。

誤魔化していることに気付きながらも大和は深く聞かず、俺の意図を汲んでくれる。付き合い安い奴だ。

この距離が俺にはちょうどいい。

自然と肩を並べて校舎まで歩く。

会話もなく心地良いと思える空気。そんな中、不意に隣を歩く大和が後ろにチラリと視線を流し口を開いた。

「おい、拓磨。アイツ…」

それだけで何が言いたいのか俺には分かった。

大和は人の気配や視線にやたらと敏感だからな。

「気にするな」

後ろをついてくる日向に気付いたのだろう。日向は見た目がチャラいせいか違和感無く大学に溶け込んでいた。

素っ気なく答えた俺に大和は底冷えするようなキンッと冷えた眼差しを俺に向けてくる。

「何やってんのか知らねぇがアイツただ者じゃねぇな。ヤバくなる前に手を引いた方がいい」

大和の忠告に、もう既に手遅れだと思いながら頷き返す。

「分かってる。それから俺はしばらく休学する。もしかしたら集会にも出れねぇ」

話の流れで俺の後ろをつけている日向と関係があるのだろうと悟い大和なら気付いたはず。

秀麗な眉を寄せ、大和は熱のない声で了承してくれた。

「それは構わねぇが、連絡だけはとれるようにしておけよ」

「あぁ」

それから講義のある大和とは、二号館校舎の手前で別れた。

さて、俺は事務室へ行かなくては。

二号館の隣にある建物、一号館へと俺は足を進めた。



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